研究室紹介

研究紹介

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私たちは、生きている細胞の中で、細胞膜上の受容体やシグナル分子を1個ずつ(1種の分子という意味ではなく、ホントに1個の分子!!)、直接に見たり、引っ張って動かしたりしています。 左の図を見て下さい。
それによって、細胞のシグナル伝達系がシステムとしてどのような機構で働くのか、神経回路網はどのようにして形成されるのか、などの「作動機構」について、本質的な理解に到達したいと考えています。つまり、生物が進化によって獲得してきた、シグナル系や細胞の社会の働かせ方の「基本的/一般的な戦略」を理解したいと考えています。

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シグナル伝達や神経回路網/細胞間接着の形成などは、細胞膜の代表的な機能ですが、このような働きができるためには、細胞膜の特定の場所に特定の膜タンパク質をリクルートすることが必要です。実は、働きの調節は、このような分子のリクルートを制御することによってなされることが多いことがわかってきました。

今までの私たちの研究から、このような制御をする代表的な機構は右の下の図あるように、5つの機構にまとめられることがわかってきました。このような5つの機構がどのように協同して、細胞膜での分子の挙動、相互作用、反応を制御し、細胞膜を働かせるかを理解したいと考えています。

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例えば、細胞外からシグナルが来ると、多数のシグナル分子が協同的な相互作用を起こし、急速にシグナル複合体を作ることがわかってきました。しかも、このような複合体は、あっという間に(つまり1秒以内に)分解されるのです。このようなシグナリングの仕方は全く予想されていなかったものでした。つまり、細胞のシグナルの機構はデジタル式だったのです。いま、このような考え方が、どの程度広く細胞で使われているか調べているところです。このような発見は普通の実験のように多数分子の平均的な振る舞いを測定してもできなかったものです。最初に書いたように、1分子毎に調べて初めてわかることだったのです。

このような短寿命なシグナル複合体ができる一方で、細胞膜中に受容体を取り込むクラスリン被覆ピットは40秒くらいの寿命を、シナプスや細胞間の接着構造はもっと長く細胞膜上に存在することがわかってきました。このような、膜タンパク質や脂質の集合/配列構造の構築の機構も明らかにしたいと思っています。このような大型の構造の形成にはアクチン線維などの作る細胞骨格/膜骨格が欠かせません。細胞膜の構造形成は、単なるセルフアッセンブリーを越えて、生体のエネルギーであるATPを消費する未知の機構によって熱運動をうまく利用することによって可能になるのだと考えています。これらを明らかにすることも私たちのミッション(impossible?)です。

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私たちのラボの最近のトピック

シグナル分子の動的局在と活性化の1分子可視化解析

短寿命シグナル伝達複合体と膜骨格ピケットフェンスによる制御

私たちは、生きている細胞の中で、細胞膜上の受容体やシグナル分子、細胞の中に受容体などを取り込むためのタンパク質群を1個ずつ(1種の分子という意味ではなく、ホントに1個の分子!!)、直接に見たり、引っ張って動かしたりしています。分子の動きや2つの分子の結合、シグナル分子の活性化などを、生きている細胞の中で、1分子レベルで見ているのです。このために、1分子法が生細胞中で使えるように工夫してきました。1分子レベルで見るとシグナル伝達機構について随分わかって来るであろう、多数分子の平均ではわからないダイナミックな機構や現象も見つかるであろう、と思いながら研究していたのですが、予想をはるかに超えてシグナル伝達系はダイナミックに制御されており、しかも、予想もしなかったやり方で制御がかかっていることが見えてきました。

上でも述べましたが、シグナル伝達系の制御は、デジタル的におこなわれていることがわかってきました。培養細胞に刺激を入れると、生化学的なアッセイ系ではもちろんのこと、イメージングの方法で生細胞を観察しても、シグナル系の活性化が1~数分間続くように見えることがほとんどです。しかし、1分子毎に見てみると、1秒以下の活性化しか起きていない例が、我々の最近の研究で次々と見つかってきたのです。すなわち、「細胞の或る部位(生化学的アッセイの場合には細胞集団全体)での活性化時間>>個々の分子の活性化時間」ということです。

つまり、平均としての活性化は(局所的な平均であっても)、個々の分子のはるかに短い活性化の積分によって成り立っているのです。したがって、或る時間での平均としての活性化の度合いは、単純に、その時間にONになる分子の個数で決まります。これは、ONの回数・頻度だけをいじれば済むという実に単純で確実な制御です。もし、「個々の分子の活性化時間=全体の活性化時間」に近いようなシステムが採用されていたとしたら、活性化と不活性化の両方を制御し、しかも、積分制御という複雑な方法で各分子のON-OFFが制御されなくてはなりません。これは、細胞にとって困難であり、制御に失敗する確率が高くなります。しかも、そのシグナル分子がRasやSrcなどのような癌遺伝子産物であるような場合、制御に失敗して暴走させることの結果は重大です。また、暴走を避けるという意味では、「個々の分子のレベルでは、活性化したら即座に不活性化しておく」、という制御法を取ることはシステムの安全性のためにも重要でしょう。

このような、シグナル複合体の活性化の制御、細胞膜上での空間制御はどのようにしておこなわれているのでしょうか?

第一の制御としては、ある分子が活性化されたときだけ、多数の分子が協同的に集まってシグナル複合体をつくり、ついでに、その分子を不活化する分子も集めてきて、自分でシグナル回路をOFFにし、複合体も分解するような仕組みを考えています。

第二はシグナルの時空間の制御に関したものです。細胞膜はすべての膜分子の拡散運動に対して、コンパートメント化されていることがわかってきたのです。コンパートメントの境界は、膜骨格のフェンスと、膜骨格に結合して膜骨格上に立ち並ぶさまざまな膜貫通型タンパク質のピケラインによってできています。受容体型チロシンキナーゼやRasは、シグナルを受けて活性化すると、短寿命のシグナル伝達複合体を形成しますが、複合体ができると、コンパートメントに閉じ込められたり膜骨格に結合したりして、動けなくなります。このようにして、シグナル入力の位置情報が情報伝達系において、短時間保持されるのでしょう。

第三はラフトによる制御です。例えばGPIアンカー型受容体CD59は、モノマーとしてかかわるときのラフトは、数分子程度の大きさ、かつ/または、ミリ秒以下の寿命しかありません。しかし、リガンド結合やクロスリンクによってクラスターを作ると(信号入力時)、平均寿命0.7秒のシグナル伝達ラフトを一分間に20回程度形成することがわかってきました。この、短寿命のシグナル伝達ラフトが、下流の細胞内カルシウム濃度上昇のようなシグナルを誘導するのです。ラフトの構造として面白いところは、通常のタンパク質複合体とは違って、細胞膜中での脂質間相互作用に基づく構造のために、形状や分子組成が大きく変えられるところです。このために、ラフトでは外部の環境や細胞の状態によってシグナル伝達の経路やクロストークの仕方を変えたりという制御が可能になるのでしょう。

これらの結果はいずれも、シグナル伝達系の制御には、シグナル分子のダイナミクス、すなわち、シグナル複合体の形成と分解、シグナル分子のリクルートなどの制御が本質的に重要であることを示しています。

さらに詳しい研究紹介は、「研究内容」を見てください。

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